「老荘思想の応用」(イチローの研究)
2011.02.21
では、具体的にはどの様に老荘思想を活用したら良いのでしょう。例えば、経営者の皆さんが、まず経営を老荘思想的に考えるとは、どの様なことなのか、から考えてみます。
例えばイチロー選手は、大リーグへ進出するに際して、「自分の強みを活かすとは何か」についてトコトン考えたと思います。
まず大リーガーの常識である「パワーヒッティング」は自分に合わない。
では何が自分を活かすことになるのか。
「何しろ安打を打つこと」に徹すること。
では「安打とは何か」といえば、まず「フライやライナーを避けること」です。
つまり、野手が捕球をする前に自分の打った球を地面に着ける、落すことです。
これが第一の条件です。
これをどうするか。
答は強い球を打って一刻も早く地面に着けることです。
したがって、誰よりも強い球を打つことに徹底しました。
当然大リーグの投手には剛球が多いから、それを間違いなくバットの自分の狙うポイントに当てる為には、こちらは臨機応変に対応出来ないといけません。
老荘思想のキーワードに次の言葉があります。
「柔弱は剛強に優る」
パワーヒッティングという剛強、パワーピッチャーの剛球に勝てるのは、柔弱、つまり柔軟(臨機応変)しかないことをイチローは見抜いたということです。
剛球をそのまま打つだけでなく、剛球の力を打つ際に極力抜いて、フワッと打ち上げてレフトやライト前に落す、更にもっと力を抜いてボテボテのゴロにして転がすなど、まさに「柔弱は剛強に優る」です。
こうした考え方で打っていると、一塁への走塁の技術も巧みになって来ます。
バットに当てたら、次は一刻でも素早く一塁に向ってスタートを切ることです。
この切り替えしを誰よりも速くする為には、身体の切れが問題になります。
頭脳の指令を身体に一瞬で伝え、一瞬でスタートを切るという身体運動に変えなくてはならない。
その為には「余計な脂肪がないこと」が条件になります。
ここでも「余計を排す」という老荘思想の考え方が生きています。
ここから体脂肪率6%台というイチローの驚異的身体が生まれたのです。
すると更に別に強い球を打つばかりでなく、打ちそこねでも、野手に捕球するまで時間がかかれば良いということになります。
強い打球でも良し、打ちそこねでも良しと可能性は倍になります。
更に2ストライクまでは強い打球を打とうとするが、その後は様々な選択肢の豊富さでカバー出来る様にすることが重要になります。
ということは、まず「ピッチャーを読む」ことが重要となります。
イチローは次の様にいいます。
「眼で捉えていた時は見えなかった部分が、身体全体で捉えるようになると見えて来た」
剣豪が真後から襲って来る敵を、眼前の敵を見るようにしっかり見てとれるのは何か、という問題です。
この答は、次の質問にあります。
プロフェッショナルを日本語では何というか。
「玄人」といいます。
玄人の玄はくろい、です。
くろいがくらいになって、玄人とは、くらいところが見える人という意味です。
くらいところとは、相手の心の中、次の瞬間や明日、遠く離れた処などです。
では玄人は何故見えるのでしょう。
答は「包括的直観力」です。
自分の五感から皮膚の感覚までを総動員して見る、あるいは感じる力です。
それはどの様に身に付くのか。
修業です(研修ではない)。
無数回の反復練習により基礎が出来ます。
無数回の実践闘技で磨きがかけられます。
無数回という事を突き詰めて行くと、実生活と訓練を分けるのでなく、実生活自体を訓練にしないと間に合わないことになります。
生活自体が訓練になります。
まさにこちらの肉体と感覚の微妙さが「玄妙」を捉えるのです。
肉眼が邪魔になりますから、肉眼と心眼の調和という訓練も大切になります。
以上ここまで言った事は全てイチローに名を借りて老荘思想の応用について解説したことになります。
あなたの会社が世界へ進出することは今後の必須となりますが、その時こそ何としても活かすべきは「日本的 ― 日本の伝統を武器にする」ことで、その為にこそ老荘思想に学ぶこと、その具現者イチローに学ぶことです。
(つづく皆様のご感想と質問によって更に充実を計りたいので皆様のご協力をお待ちしています)
−経営者の注意点−
1 世界には驚異的なパワーを持った企業が多い。
まともに戦うよりは、「柔弱は剛強に優る」を忘れず、柔軟、しなやかな対応に徹すること
2 イチローが改めて野球そのもの、バッターの在り方を見直した様に、もう一度「ビジネスとは何か」を見直してみること
3 日本人、日本人集団の武器は「鋭い感性と深い精神性」にあることを改めてトコトン活用すること
4 社員全員をプロ(玄人)にし、自社をプロフェッショナル集団に変身させること
5 「包括的直観力」の養成を必須とし、その為に「生活自体を訓練の場」として、達人の領域へ入ること
6 見えない部分を重視し「人格、達人性」も人事考課の項目に入れること
「滞(とどこお)る、止(とど)まる、躓(つまず)く」を無くす
2010.12.17
これが老荘思想の根本を爲す考え方です。では何故こうした事が生じてしまうのか。
それについての詳細が述べられているのが「老子」であり「荘子」なのです。
まず「事業目標、計画」を立案する時は、何といっても重要なのが「無爲自然」です。
無爲とは見守ること。
自然な心で見守ること。
自然な心とは、手前勝手な思惑や自分の都合などを優先させて見ないことです。
何を見守るか。
「社会の流れ」「顧客の欲求の流れ」「業界の流れ」「技術の流れ」「自社商品の流れ」の5つの流れを、じっと見守る。
緊張感を持って見守る。
すると乗るべき流れが浮き出て見えて来ます。
その流れを重視して「事業目標、計画」を立案することです。
次に計画の実行ですが、何といっても重要なのが「水善く万物を利して争わず」です。
何故水は入れない所が無いのか、これをよくよく考えてみることです。
答は「無有にして無間に入る」です。
無有とは、自分の形を持たない。
自分の主張は後にする。
先方の要求から伺う。
その要求に自分の形を合わせる。
水は器(先方)の形に合わせるから入れない所がないのです。
これが「水の精神」です。
更に「不争」に徹して、誰れとも競争、論争、言い争いなどはしない。
「謙虚」に徹しながら、多くの他社資源を自社資源として使い(「水は善く万物を利す」)活用して行く。
次はゴールの求め方です。
当初決めた計画上の目標に、固執すればするほど、到達は難しくなります。
「柔弱は剛強に勝る」で、柔軟に柔軟に考え、その時その時の状況に対応して行けば、もっと淒いゴールに入ることだって可能なのです。
以上申し上げたことと、ことごとく反対を行えば、必ず失敗の方へ行きます。
イチローと老荘思想
2010.09.22
「不争謙下」は老荘思想の有名な言葉だが、イチローの思想こそ、ここから来ていると思わざるを得ない。その一例をご紹介しよう。
2002年のオールスターゲームの時だ。
毎回イチローのロッカールームは、まるで野球講演会の様になる。
いつもいろいろな選手がバッティングについて質問してくる。
ボストンレッドソックスのマニー・ラミレスがイチローに聞いて来た。
「カーブを打つときに頭が動くことをどう修正するか」この時ラミレスとイチローは首位打者を争っていた。
1994年からのイチローは連続首位打者記録を続けていた。
そんな時にあなたならライバルの質問にどう答えるか。
きっと顔も合わせたくないと思うだろう。
この時イチローは懇切丁寧にその質問に答えたのである。
結果はラミレスが猛然と盛り返し、初の首位打者に輝いた。
イチローは首位打者のタイトルを逃しただけでなく、連続記録もふいにした。
まさにイチローのアドバイスによってラミレスは復活したのだ。
しかしイチローに後悔は一切なかった。
「自分がアドバイスした通りにラミレスがやって、それで結果が出ればうれしいじゃないですか。
僕もアドバイスで言ったことを同様にやってきた。
自分の考えていたことがそれで正しかった、ということになる」といった。(「イチローの流儀」)
イチローには誰と争うという、そうした他人との競争という考えは既にもはや無い。
あるとすれば「昨日(きのう)の自分との競争」だろう。
つまり自分の実力が如何に向上したのか。
もっと言えば、頂上へ行く為の一歩一歩の山登りが、毎日の試合であって、他人より早く、高く登ったとしても、それが五、六合目では意味がない。
自分は既に八合目を通り過ぎたところだ。
したがって、自分の弱点の克服こそが最大の感心で、これは何処まで行っても尽きることはない。
永遠に課題を追いかけて(謙下)登り続ける、それしかないといっているのだ。







